不服申立ての改正について

障害年金支給申請をして不支給決定された場合納得がいかなければ不服申し立てを行います。いきなり訴訟を提起できません。これを不服申立て前置主義といいます。これは有限な裁判所の能力を有効活用すること・大量に行われる処分であって行政の統一を図ること・専門的技術的な処分は行政のほうが適していることなどの理由からです。そして訴訟は終局的強制的な解決手段であるために当事者の手続き的保証を十分に図るため時間がかかります。あくまで裁判所は中立公平な第三者であり当事者の主張のみを前提に判断することからなお時間がかかります。

そのために専門的技術的機関である行政救済手段を用意しているのです。これが不服申し立てで社会保険審査官及び社会保険審査会法では現在(2016年1月30日)審査請求と再審査請求のに申請となっています。

しかし、本当にに申請が必要なのでしょうか。通常裁定請求から社会保険審査会の判断が出るまで2年はかかります。その後納得がいかず訴訟となるとさらに時間がかかります。裁判迅速化法の施行以来1年決心を目標としていますがそこにかかる労力は不服申し立てとは比較になりません。

通常法律要件に当てはまる事実の有無が争点となります。この場合に事実の認定は証拠によります。それゆえ審査請求・再審査請求では請求の理由を箇条書きにして一つづつ添付資料(証拠)をつけます。これが請求人の主張になるのですが当事者の主張のないものでも職権で審理に取り上げることができ(職権探知主義)また証拠の収集も職権で行うことができる(職権証拠調べ)。

再審査請求では原則公開され意見を述べることもできる。一つわからないことは「意見陳述は審査会がすべての当事者を招集してさせる」と改正された点が欠席した場合に不利に作用するのではないかと考えられることである。

いずれにしろ審査請求では事実上の書面審査(口頭での陳述も認められる)

再審査請求では原則一回の公開審理で結審されます。

これに対し行政訴訟(処分の取り消し訴訟)では職権証拠調べは行われますが職権探知主義はとられません。必ず事実の主張が必要になります。ちなみに私的自治の原則が妥当する民事訴訟では弁論主義が取られ証拠の収集提出も当事者が行う必要がある。これは行政訴訟が公益性の判断が必要となることから証拠の収集提出まで当事者に任せることは妥当ではないからです。

そして訴訟では中立公平な裁判官が判断することから合理的な疑いを入れない程度の心証を形成するまで弁論は続けられます。

今回の改正では行政全知主義は残りましたが審査請求のみの一審制となりました。再審査請求をするか訴訟手続きに進むかの選択になったわけです。そこで再審査請求と訴訟とでどちらが有利かを検討します。

社会保険審査会の委員は身分保障がなされ任命に際しても厚生労働大臣のみならづ両議院の事後承認を必要とし中立公平性は担保されている。これに対し裁判所はいうまでもなく行政とは別組織であり政治的影響力を受けない構造になっており裁判官それぞれが憲法上身分保障されている(司法権の独立)。中立性という点では訴訟の方が優れている。

では手続き保証という点ではどうであろうか。

もちろん社会保険審査会から訴訟を提起できる以上社会保険審査会を経て訴訟へと進む方が手続き保証という点では優れている。また前述のとうり職権主義をとるので見落とした点も審査の対象となるので訴訟を提起した場合も事実の主張の幅が広がる。しかも、審査会には医師も含まれているので請求人では判断しえないことも判断できる点で優れている。

次に行政手続きはあくまで迅速な解決を目的とすることから証拠方法を医証など信用性の高いものに限定している。これは再審査請求でも同じです。この点では証拠方法の無制限をとる訴訟のほうが優れている。

このように再審査請求と訴訟では一長一短がありどちらが優れているかは一概には言えない。そこで慎重な判断をしたいのならば再審査請求を選択しその後訴訟を提起すべきであろう。これに対し初診日証明などで争われ医証等がどうしてもそろえられない場合は訴訟に進んだ方がよいであろう。