民法と障害年金

民法は私人間の法律関係を規律する法である。これに対し国民年金法・厚生年金保険法は国家と個人の間の法律関係を規律している。そのため民法・国民年金法・厚生年金保険法がそのまま一般法特別法の関係にはなりえない。ただし時効や先取特権(「サキドリトッケン」と読む)など私法上の規定が使われている場合にはこの部分にのみ一般法特別法の関係が生じる。

では一般法特別法の関係とは何か。

ここで一般法である民法では私人間の法律関係をすべて規律する事になるのに対して一般法を特殊な法律関係に適用する事は不都合であることから特別の規定を置くことから特別法といいます。

それゆえに特別法が一般法と競合した場合は特別法の規定が適用され、規定されていない場合は一般法の規定が適用されます。

民法の構造を知るにはやや不適切とは思いますが、なじみの深い時効を取り上げてみます。

時効の趣旨は永続した事実状態の尊重・権利の上に眠るものは保護せずである。

時効は一定の期間が経過しただけでは効力はゆか生ぜず援用(民法145条)を必要とします。これは時効の利益を受けることを潔しとしない者の意思を尊重する趣旨である。

国民年金、厚生年金では会計法31条が適用されないので時効の援用を必要とします。

一般法たる民法は債権は10年間行使しない場合は時効消滅します(民法167条1項)。

これを商法では5年とします(商法522条)。これは取引の安全を重視する商法の性格から迅速な権利関係の確定を要求したのである。

国民年金、厚生年金で消滅時効を5年としたのはなぜであろうか。

おそらく年金給付請求権に関しては国民の関心事であり10年は必要としないと考えたのであろう。また年金給付はすべての国民を対象とすることから行政事務の効率性を追求したものと考えられる。

そこで消滅時効について考えてみる。

時効は権利を行使しうるときから進行し(民法166条)、時効の援用によりその効力は起算日にさかのぼる(民法144条)。そして時効の利益は放棄する事が出来る(民法146条)。また時効は請求、差し押さえ、仮差押え、仮処分、承認があった時は中断し、中断事由が消滅した時には終了した時から進行する(民法147条・157条)。

ここで一般法特別法の関係について特別法で例外を認めている場合はその規定を適用し、規定されていない場合は一般法を適用すると述べた。一般法たる民法では国民年金・厚生年金の時効の規定が第1編民法総則第7章第3節167条1項の 特別法ということになる。とすると特別法が定められていなければこの節の規定が適用されて、これで解決しなければ第1節の規定が適用されというように前へ前へと適用される条文は続き最終的には一般原則たる信義則・権利乱用が適用される。

少し離れて労働基準法は有名契約である雇用の特別法なる。民法は総則・物件・債権・親族・相続を定める。そして債権は総則・契約・事務管理・不当利得・不法行為にわかれる。そして契約は総則から始まって14節にわかれる。この第8節雇用の特別法ということになる。とすると雇用の規定で解決しない場合は契約総則・債権総則・民法総則と適用されて最後に一般原則たる信義則・権利乱用に行きつくことになる。