性同一性障害

[問題] 傷病手当金は療養のため労務に服することができない場合に支給されるが、性同一性障害で性別適合手術を行った場合にも支給されるのか。

1 当該手術の健康保険の適用については精神療法やホルモン療法など他の両方による治療が十分に行われたにもかかわらず治療効果に限界がある場合に実施されるべきである。

 本件において「他の療法による治療が十分に行われたにもかかわらず治療効果に限界がある場合」に該当すると認められるか。

2 本件手術はそれを受ける目的で__国にわたって施行されたのであるところ、このような治療目的で海外へ出かけて診療、手術を受けた場合の療養費については健康保険法は適用されず療養給付の対象とならないのではないか。

[論理] 1 請求人は生物学的には男子であるが、心理的には女子であるとの確信を持ち自己を身体的・社会的に女子に適合させようとする意思を有し、精神療法・ホルモン療法をへて本件手術を受けるにいたった。

 自己を社会的に女子と適合させるには周囲から女子と認識されるだけではなく性同一性障害特例法による性別取り扱い変更の審判を受け、法令の適用上も女子として扱われなければ十分とは言えない。

 請求人は特例法3条1項本文の性別変更の審判を行っている。

 以上を総合勘案するならば本件手術は「ほかの両方による治療が十分に行われたにもかかわらず治療効果に限界があるといった場合」に当たり「治療上やむを得ない」ものであったと認められる。

 したがって本件手術は健康保険法の適用のある療養の給付の対象となる。

2 請求人の場合、当該手術を受けなければ特例法によって性別の取り扱いの変更をはかることは不可能である。

 また我が国には当該手術の施行を行う医療機関がきわめて少ない。

 それゆえ我が国で当該手術を受けるべきであったというのはあきらめるのに等しい。

 そのような場合にも本件手術を目的として__国へ出かけて受けたものであるから療養の給付の対象とならないとの一事をもってそれによる療養のための労務不能についても傷病手当金を受給することができないとするのは法の解釈運用として形式的硬直的に過ぎ相当ではない。

 したがって傷病手当金との関係ではこれを支給すべきものと解する。

[解説] 憲法は個人の尊厳(13条前段)を最高の価値として認め一人一人が個性を尊重され自分らしく生きることを保障している。そして政治的少数者こそが本当の意味でのその個性を尊重されなけばならない。

 そういう意味で本裁決例は人権保障の観点から法を実質的に解釈し傷病手当金を認めたものである。

 ぜひとも原文に当たって読み込んでいただきたい。