請求の方法と再請求の可否

以上が障害年金の法律要件である初診日要件・保険料納付要件・障害等級要件ということになります。次に請求の方法について少しお話します。

 請求の方法は障害認定日請求・事後重傷請求・初めて12級請求があります。

 ここで障害認定日請求とは障害認定日に障害等級に該当していれば(もちろん初診日要件・保険料納付要件も満たしている必要があります)請求できます。

 障害認定日請求のメリットは請求が遅れても障害認定日にさかのぼって障害年金が支給される点です。しかし障害認定日より5年を経過した時は消滅時効により5年を超えた分(支分権)は支給されなくなるのが原則です。もちろん行政側に瑕疵がある場合は5年を超えても支給されることはあります。しかし非常に例外的な場合です。

 ちなみに障害年金受給権を基本権といい、月々発生する具体的な支給額を支分権といいます。どちらも時効の援用をすることで時効消滅するのですが、基本権については障害年金が労働能力が失われた場合の生活保障という趣旨であることから時効を援用するとこの趣旨が損なわれることになるので時効の援用はしない運用になっているようです。時効制度の趣旨は永続した事実状態の尊重と権利の上に眠るものは保護せずです。念のため。

 時々誤った考えを持っている方がいますが消滅時効は時効の援用があって初めて効力を生じます。したがって援用の前に「わかった借金は返す」などと言ってしまうと時効の援用は認められず返すことになりますので注意してください。

次に事後重傷請求は障害認定日に障害等級に該当しなくても、後に障害等級に該当し65歳に達する前に請求すれば請求翌月から障害年金の支給が開始されます。もちろん障害認定日に障害等級に該当しているか不明な場合にとりあえず事後重傷請求をしておいて、後に障害認定日請求することもできます。

そして初めて12級請求とは前発障害、基準障害を合わせて65歳に達する前にはじめて12級に達した場合には請求翌月から障害年金が支給されます。

 

このメリットは基準障害に初診日要件・保険料納付要件・障害等級要件が要求されるもので前発障害に障害年金支給要件が満たされなかった場合の救済として使えます。

実は一度請求すれば同じ事情の下では原則として同じ請求はできなくなります。この意味で一度請求したら2度と請求はできないというのは正しいことになります。

これを不可争力といいます。裁判では規範力・一事不再履行などと言います。

しかし民事訴訟でも、刑事訴訟でも再審が認められています。再審が認められるのはあくまで例外的場合であり、新証拠の発見など事情が異なった場合に限られます。そのため既判力・一事不再履行の及ぶ人的範囲・時間的範囲・物的範囲が問題になります。もっとも障害年金受給権は一身専属権ですので人的範囲は問題とはならないのが原則です。

不服申し立ても含めて訴訟手続きは真実の発見を目的としますが真実はわからないのが前提です。真実は本人しかわからないからです。そのために十分な手続き保証を認めるのです。すなわちやるだけやった、あとは公平・中立な裁判官の判断に任せようという状態にするのです。それゆえ不服申立てに納得がいかなければ司法審査の道が残されています。とするならば新証拠の発見により新たな事情が生まれてきたのならば再審をする必要が生まれます。

不可争力は審査手続きを無駄にしないことと、一度争う機会が与えられた以上2度争う機会を与える必要はないことを理由とするものです。この例外として再請求があります。

では事後重傷請求は一回しか認められないのでしょうか。実は事後重傷請求に時間的範囲は一つとして同じものはありません。すなわち、事後重傷請求は請求日現在の状態を見て障害等級を判断するのです。したがって一度請求してだめでもしばらくしてまた請求できます。不可争力の範囲外なのです。もっとも診断書等費用と手続きのための労力がかかるのでそう簡単にはできないと思います。

また初めて12級は、はじめて12級となったときを基準とすることから何度も請求できないと思われがちですが時間的範囲をずらしてやれば新たな事情についての請求となるので不可争力に縛られることはありません。すなわち診断書でいえば現症日の異なる診断書により1級または2級に該当するかを判断されていくことになります。

問題は障害認定日請求ですが、障害認定日請求は障害認定日の請求をするので時間的範囲は全く同じということになります。とすると原則として再請求はできないことになります。しかし、新証拠の発見があれば今度は調べる範囲、すなわち物的範囲が変わりますので新たな事情が生じたといえます。ちなみに刑事訴訟ではこの新証拠の発見に関して新規性と明確性を厳格に要求することから再審開始が決定されることはかなり少なくなっています。障害認定日請求の場合においてはそれほど厳格に考えてはいないようです。

私の知る事例では20歳前障害でてんかんの障害をお持ちの方がいましたがこの方は障害認定日にてんかん発作が1回ということで形式的に2級の要件を満たせませんでした。ちなみに2級認定されるには1年に2回のてんかん発作を生ずることが必要ですが(指摘されると困るので言っておくとBタイプのてんかん発作のことです)障害認定日後にさらなる発作に見舞われ実質的には2級の要件を満たせていた場合です。てんかんで審査請求をしたいと相談されたのですが形式的には要件を満たせないので事後重傷請求をするほうが手間はかからない。審査請求では実質的に障害認定日に2級に該当していることを証明して障害認定基準に反する認定を認めさせる必要があると話しました。それと同時に話の中から中等度の精神遅滞もお持ちの方でしたのでてんかんと精神遅滞で20歳前障害の再請求をすることもできると回答したことがあります。残念ながら私への依頼はなかったのでその後の経緯はわかりませんが、この場合は20歳前障害の新証拠として中等度の精神遅滞があったわけです。

このように他の障害がなくとも新証拠になるものはありますがそれは事例に応じて具体的に考える必要があります。

 

また実際に受任した事例では三度目の事後重傷請求を棄却され審査請求で受任してなんとか通した事例、また三度目の障害認定日請求で棄却され現在争っている事例があります。どの方も必勝の信念を持って粘り強く争っています。