障害年金 変形性股関節症(障害等級)

 今回は変形性股関節症で傷害等級が問題になった事例です。

 本件では併合判定参考表8号4に該当することから傷病が治っていなければ3級に該当することになる。

 ここで「傷病が治った場合」とは器質的欠損若しくは変形または機能障害を残している場合は医学的に傷病が治ったときまたはその症状が安定し長期にわたってその疾病の固定制が認められ医療効果が期待し得ない状態に至った場合をいう。

 変形性股関節症を医学的観点から見ると関節軟骨の変形・摩耗による関節破壊が生じそれに対する反応性骨増殖を特徴とする疾病である。原因疾患が明らかでない一次性股関節症は全体の15パーセント程度、残りは先天性股関節脱臼・亜脱臼、臼蓋形成不全による股関節の亜脱臼性股関節症など原因が明らかである二次性股関節症とされる。この先天性股関節脱臼・亜脱臼、臼蓋形成不全による股関節に対する異常な力学状態が長期間継続すると関節破壊は進行する。これに対し早期に骨切り術や人工関節など手術的治療が必要とされている。

 請求人は骨切り術、人工関節置換術など根治的治療を受けていないことから治ってはいないと判断される。

 では厚生年金保険法73条の2が「正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより回復を妨げたときは保険給付の全部または一部を行わないことができる(任意的不支給事由)」に抵触し任意的支給停止とならないだろうか。

 まず年金を得たいがために手術を受けないことは正当な理由とはならず許されないであろう。

 次に手術について命の危険を伴う場合がある。この場合には個人の尊厳を尊重する趣旨から本人の自己決定権を尊重して拒否したとしても正当な理由となり年金は支給されると考える。

 では手術が失敗しさらに悪化することが予想される場合はどうであろうか。これについてはすべての手術に内在する危険である。それをすべて本人の意思に任せることは年金受給のための理由となってしまう。それでは健康を害したときには治す。それでも労働能力が失われている場合には生活保障を行うと考える社会保障全体の枠組みが失われてしまう。そこで難易度の高い術式については本人の意思を尊重するが、それ以外の術式については任意的不支給事由になると考えたい。

 本件においては左下肢血管奇形のため手術侵襲に関して大量出血による死亡の危険を有するものと判断されている。それゆえに手術を受けなくても正当な理由として任意的不支給事由とはならない。

 したがって障害厚生年金3級が認定されている。