被保険者期間

[問題] 年金事務所では60歳から特例老齢年金が支給されるとの説明を受けたが実際はそれ以後だった。60歳から支給されるか。

[論理] 1 本件では請求人は第3号被保険者の届け出を怠り、第1号被保険者として保険料未納期間となっていた。

 この期間を合わせると特例老齢年金の資格期間を満たす。

 しかし60歳を超えてから3号特例届け出を行っているためその届け出の翌月から効力を生じることになる。

 したがって60歳から支給されないのが原則になる。

2 では保険者側の誤った説明、教示により被保険者が届け出、裁定請求を適切な時期に行うことができずそのために本来有していた権利の行使が妨げられたといえるような特段の事情のあるときは信義則(民法1条2項)の法理などに照らし手続き上是正を図るのを相当とする。

 ここで当時平成16年改正法はまだ施行されておらず本件係争期間を遡及して第3号被保険者期間とする方法はなかった。

 最も平成16年改正法の施行日である平成17年4月1日以降に訂正する機会があったことから保険者の職務義務違反といえなくはない。

 しかし本件の発端は請求人が第3号被保険者の届け出を失念したことにある。

 この点を不問にして保険者側の職務義務違反だけを一方的に認定するのははなはだ均衡を欠く。

 したがって信義則の法理の適用はできない。

[解説] 信義則とは特別の社会的接触の関係に入った者は相互に相手方の信頼を裏切らないように誠意をもって行動すべきとするものである。

 信義則は私法の一般条項とされ個別具体的な法令により結論の妥当性が測れない場合の最後の手段として使われる。

 したがって信義則を使う前にあらゆる手段の検討を先ずしていただきたい。