裁定請求日

[問題] 裁定請求をしていることを理由として遺族厚生年金の支分権は時効消滅していないのではないか。

[論理] 1 代理人は社会保険事務所に出向き遺族厚生年金の裁定請求書を提出しようとしたことは認めることはできるが、実際にこれを提出した事実を認めるに足りる資料の提出はなく、代理人が遺族厚生年金の裁定請求を行ったと認める事はできない。

 2 被保険者が保険者の十分ではない説明・指導に従って一定の行為に出たため、結果としてその経済的利益が損なわれたといえるような場合、保険者の説明・指導が信義則の法理に違反することが明らかな場合にはこの説明・指導に従ってなされた行為にかかる処分が関係法令にのっとったものであるからといってこれをそのまま維持するのは相当とは言えない。

 本件では代理人が社会保険事務所に遺族厚生年金の相談に行き、必要書類等を取り寄せたが非課税証明書だけ入手できなかったため裁定請求書を提出するに至らなかった。

 しかしこのときの保険者の説明・指導の詳細が不明であり信義則の法理に基づいて裁定請求したものと扱うことはできない。

 したがって遺族厚生年金の支分権は時効消滅していないとは言えない。

[解説] 改正前厚年92条1項は保険給付を受ける権利は5年を経過した時は時効により消滅するとする。

 また会計法30条は国に対する権利で金銭の給付を目的とするものについては5年間これを行わないときは時効により消滅するとする。

 したがって遺族厚生年金の受給権が発生し5年以上行使しなければ時効により消滅することになる。

 しかし保険者は受給権の行使自体は認め、支払期月ごとに発生する遺族厚生年金の支給を受ける権利(支分権)のみ会計法30条で5年の経過をもって支給しないものとする。