[問題] 傷病手当金の支給は支給を始めた日から1年6ヵ月を超えないものとする(健保99条2項)。そして本請求期間は従前の傷病の継続によるものか。それとも復職期間を持って社会的治癒があり本請求期間はその後の再発による労務不能と認められるか。
[論理] 「同一の傷病」とは一つの疾病の発病から治癒までを言うが、同一の疾病として扱うかは、現在の疾病が以前からの疾病と因果関係があるかないかで判断する。
「治癒」とは医学的意味だけでなく、社会学的治癒を含む。
前の疾病が医学的治癒または社会学的治癒した後再び悪化した場合は、別の疾病として扱う。
ここで社会学的治癒とは臨床的に症状がなくなったか又は悪化の恐れのない状態に固定して治療の必要のないと判断され、かつこのような状態が相当期間継続しその間一般人と同様、労務に服することができた場合は治癒したとする考えである。
クローン病は医学的知見によればいわゆる難病であり根治する方法はなく憎悪寛解を繰り返すのを特徴とする。
治療の目標はクローン病の活動性をコントロールし患者の生活の質を高め緩解導入した後再発再燃を予防しできるだけ長く緩解を維持するための治療・投薬が必須である。
請求人の病状経過について投薬は活動期の治療ではなく緩解を維持するための予防的治療と認める。
就労状況は職場復帰後休職前と何ら変わりなく他の社員同様に残業にも対応し勤務していた。
以上より総合的に考えれば上記復職期間において社会的治癒を認めるのが相当である。
[解説] 本件も社会的治癒の要件に事実を当てはめたものである。
社会的治癒は被保険者の救済のために考え出された法理でありその性質からいって保険者の側でこの法理を持ち出し保険給付をしないための論理とすることはできないと考える。